2017/09/08
Vintage Art ① パトリシア・フィールドのアートコレクション:アートとファッション
今は無きCBGBやポエトリークラブに隣接するブティック『パトリシア・フィールド』は、70年代以降シーンスターと呼ばれるミュージック・カルチャーシーンに属する者や、セレブ、LGBT、そして世界中のファッショニスタが集うメルティングポットだった。マドンナ、デボラ・ハリー、バスキアも常連だった。1983年イーストヴィレッジのショップではキース・ヘリングがペイントした初めてのTシャツが販売された。「ファッションは着るアート」だというフィールドと「アートはみんなのもの」というヘリングのコンセプトの完璧なコラボだった。ヘリングの他にもパトリシア・フィールドに魅了されたアーティスト志願者たちがブティックに作品を持ち込んでは展示会をしていた。おかげで膨大な数のアート作品がファンキーなショップの壁を埋め尽くしていた。ほとんどが無名アーティストの作品だが、ヒップで煌びやかで、ときに怪しげなローブを纏い、パワーを炸裂させていた。半世紀に及ぶフィールドの作品コレクションは300点にも及ぶ。「アートコレクションは私のこれまでの50年間のキャリアと思い出。ハウス・オブ・フィールドの宝もの」とフィールドが言うように、どの作品にもストーリーが孕む。現在このアートコレクションの主要作品が山梨県小淵沢にある中村キース・ヘリング美術館にて初公開されている。ダウンタウンのクラブシーン、LGBTコミュニティー、ストリートアート、ミュージックシーン、そしてイーストヴィレッジのアンダーグラウンドカルチャーと共にスタイリングされてきたアートだ。ファッション界に多大な影響を及ぼしてきたパトリシア・フィールドの自由で個性的なヴィジョンの起源(オリジン)ともいえる作品群だ。これこそが往来のアートの傾向やモードに左右されず、名声を目指すことでもなく、自由に表現する「アール・ブリュット」(1945年にデュビュッフェが命名したアウトサイダーアート)だ。
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Patricia Field Art Collection
展示期間 2017年7月1日—11月20日
中村キース・ヘリング美術館 (山梨県北杜市小淵沢町)
www.nakamura-haring.com
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Patricia Field Biography
パトリシア・フィールドとは
1942年ニューヨーク生まれ。
映画「プラダを着た悪魔」(2006年)や、テレビドラマ「セックス・アンド・ザ・シティー」(1998年から2004年)で知られるニューヨークのカリスマスタイリスト。エミー賞受賞や2007年にはアカデミー賞にノミネートされるなど、テレビや映画の世界で活躍するだけでなく、1966年にオープンしたショップ『Patricia Field』は、半世紀もの間、ファションとカルチャーに多大な影響を与えた。日本では2008年にヴィダルサスーンのCMで安室奈美恵とのコラボレーションや、アメリカン・エクスプレスのキャンペーンでは、そのスタイリングを表現するという、ユニークなファッションショーが東京で開催された。
2016年春『パトリシア・フィールド』は閉店されるが、テレビや映画、ミュージカルなどのスタイリングで今も第一線で活動を続けている。また、「着るアート」をコンセプトとしたブランド「アートファッション」を展開。ファッションをアートとしてキュレーションする、これまでにない新しいスタイリングの在り方に挑戦している。2016年アート・バーゼル マイアミ・ビーチ(大規模な国際アートフェア)でアート界にデビュー。
このエッセイを書いた人
梁瀬薫 (やなせかおる)
ニューヨーク在住。
国際美術評論家連盟米国支部(Association of International Art Critics USA )
美術評論家/ アート・ジャーナリスト
1986年MOMAの仕事でNYへ渡る。以来、(株)美術出版社ニューヨーク支部を立ち上げ海外情報事業を担当。美術評論家兼ジャーナリストとして多くのメディアに寄稿。写真家ジャック・デ・メロとアートと社会を繋ぐYDNY Productions, Inc. を設立し、アートコンサルディング、展覧会企画とプロデュースなど、コンテンポラリーアートを軸に幅広く活動。2015年ニューヨーク能ソサエティーのバイスプレジデント就任。日本の文化と伝統芸術の紹介と教育に携わる。